坪木の【新】教育論④:個別指導塾の長所と弱点

個別指導塾と言っても、講師:生徒が1:1~1:4まで様々ですが、共通しているのは全ての生徒に対して個別対応していることです。生徒の学力に応じて取り組む問題を取捨選択し、無理と無駄をトコトン排除します。宿題も、生徒の学力・状況に合わせて内容・分量を調整します。ですから、生徒は常に自分に合った指導を受けることができます。

例えば成績優秀者は、1つの単元を習った場合、それを応用した総合問題、入試レベルの問題にチャレンジすることができます。また、成績不振者は、その単元を理解するために必要な過去の単元に遡(さかのぼ)って解説を受けることができます。こうした指導が受けられるのは個別指導だけです。

日本全体が豊かになり、また、個性重視が叫ばれるようになると、この個別指導塾が支持され、全国に広がっていきました。ところが、個別指導塾がスタンダードになってくると、その弱点(欠点)も明らかになってきたのです。

1つは「生徒が依存体質になってしまう」ということです。標準的な個別指導は、生徒二人に対して講師が1人付きます。ほぼマンツーマンで指導できるのが長所なのですが、それは大きな欠点と表裏一体です。たいていの場合、講師は学生アルバイトです。けっして指導のプロではありません。するとどうしても「教えすぎる傾向」に陥ります。現場にいる私には分かるのですが、指導者として「教えないこと」は大きな勇気を必要とする行為です。質問された場合、教えることが正義であり、教えないのは悪であるという呪縛があるのです。しかし、生徒の学力向上を本気で考えた場合、安易に教えるのは逆効果です。「自らの力で考える時間」が、本当の学力を培うためには必要なのです。かつて、家庭教師協会が調べたデータによると、生徒の成績が上がる、すなわち優秀な教師は、指導時間の4分の1を説明に充て、残りの時間は生徒に考えさせているということが分かりました。

しかし、素人の学生アルバイトに、そこまで要求するのは無理です。「あの先生は質問したのに教えてくれなかった」と批判されることに怯えています。また、成績優秀な学生は「教え好き」の傾向が強いものです。「分からない」と言われれば、喜んで教えます。

こうした講師の傾向は、生徒にとって喜ばしいことではありません。少し難しい問題に当たると、自ら考えることをすぐに辞めて講師に質問してしまいます。隣に「解答マシーン」が座っているのですから、当然の選択です。つまり、個別指導の現場では、「教えたがりの講師」と「あきらめの早い生徒」が共依存の関係を作ってしまうのです。結果、生徒の依存心が高くなり、本来培わなければならない向上心や自主独立性が失われていきます。これでは本末転倒です。

個別指導が抱えるもう一つの弱点(欠点)は塾の根幹に関わることです。塾関係者の誰もが知っていて、誰も言い出さない弱点です。それは…「個別指導は成績が上がらない」という致命的な事実です。

その最大の原因は、前述した「生徒が依存体質になってしまい、自らの学習意欲を減退させてしまうこと」ですが、それとは別に、個別指導塾が内包している構造そのものにも原因があります。

個別指導塾の場合、週2回(1回80分)で月額3万円強の授業料というのがスタンダードです。どうしても授業料が高額になります。結果、ほぼ7割の生徒が英語と数学のみを受講することになります(中高生の場合)。

たとえ個別指導でも、週に80分だけの学習で成績を上げることは不可能です。基本、成績の向上は学習量に比例します。また、英語と数学の成績は上がったとしても、他の科目は手つかずのままです。高校受験・大学受験を考えた場合、英語・数学以外の科目を無視することはできません。これでは、生徒・保護者の切なる願いである「成績向上」「志望校合格」を実現するのは困難と言わざるを得ません。